「切腹」という映画を見た。深夜帰宅し、疲れて果ててはいたものの見たくてしょうがなかったのだ。おかげでその日は、血みどろの悪夢にうなされ目覚めた。
ひとつの白黒の絵葉書。それは切腹する直前の浪人の姿だった。役者は仲代達矢。その当時、短命に終わった鎌倉シネマワールドにデートに行き、彼氏が買い、その絵葉書がずっと私の家に残ってた。あれからもう既に、ものすごい時が流れているというのに、なぜか捨てられず、家の片隅にいた。
昭和37年の作品であるし、三国連太郎、丹波哲郎、岩下志麻ら大御所が出演。見た方もさぞ多いであろう。しかし、凄い。そして思った。人はいつから自分の言葉に責任を負わなくなったのだろう。この頃、たまにあれっと思うことがよくある、あなたあの時ああ言ってたよね…?でも忘れたふりをする。人を責めてはいけないというフィルターが、咄嗟に私を覆う。でも私はまだ認知症ではない。ちゃんと覚えている。
現代はスライド的に流れ、ひとつのことにこだわっている方が、鈍臭くみえるのかもしれない。そして思う、私だって欠点の塊だ、人のいいところだけをみよう。でもそれもなんだか違う気がしながら、自分は前へ進むしかないと結論する。死んだらおしまいじゃんと言わんばかりに、物事をスライドし続ける輩は、スライドが当然の如くになってしまい、何の決断もできなくなってしまうのかもしれない。死ぬことを覚悟で、乗り込む一匹狼、仲代達矢扮する一介の浪人は、しかと自分の言葉を喋る。女々しい影を一筋も残さず、凛としている。私もしっかりと、自分の言葉で喋る人間に近づきたいものだ。