地震以来、何かが確実に変わってしまった。それは理屈ではなく体感していたが、戻りつつあった日常に告げられた現実、我が身に降りかかれば、たちまち不安、狼狽。情けないものである。
そんな折、旅に誘っていただいた。ダンサーの黒沢美香さんが主催する湯治の会で、毎年この時期に山梨の増富ラジウム温泉を訪れるのだそうだ。
この湯の特徴は30℃の冷泉。ぬるいというより冷たい。修行のようだ。しかし不思議なことに30分じっと浸かっていると、体の毒が抜けたようにすっきり。食事は自炊棟のある宿で皆で作る。食材は山で調達。ヨモギ、ウドなどの山菜、野草を摘み、天ぷらや和えものにして食べた。摘みたての葉はほろ苦く青く、噛むほどに美味しい。豆ごはんや具だくさんの汁も膳に並び、ぜいたく。夜は朗読会(皆が順番に短編小説を読む)など催した。
2年半勤めた仕事の解雇通告。山梨の山で母が亡くなって5年。焦り、心細さ、片付かない思いの中で、めぐりあったような旅の機会だった。治癒されること、人と話すこと、食べること、ささいだけれど大切なことをたくさん見つけた。
遅い春を迎えた山の桜、固い土を突き破って芽吹く命。湧き水に手をかざせば、冷たさとともに元気がしみこんでくる。人には再生する力が備わっている。たぶん私にも。