春が来て、桜が咲く。
桜が咲かなかった春はなかった。
玄関の前の一本も健気に咲き始めたが、やはり桜色の世界に包まれてみたくなり、靖国神社から千鳥ヶ淵へのお花見王道コースを行く。靖国神社は、思いのほかしんとしている。見れば「東日本大震災に鑑み、花見の宴はご遠慮願います」の看板が。お花見にはワンカップが似合うのに。自粛ってお願いされてするものでもないのに。のにのに。それに加え放射能の心配もあるのか、千鳥ヶ淵も、例年より人が少なく、おかげで一本一本の桜の木と対話をするように、ゆっくりと眺めることができた。枝の表情にもそれぞれ個性がある。そしてそれらがまとまり全体で完成する桜の風景、心動かされる。彼方と此方、ライトアップもなく、夕景ににじんでいく淡い桜色は、はかない。薄暗くなった東京はなんだかしんみりと美しい。
地震のあと、いくつかの公演に足を運んだが、どれもそれぞれの決意が感じられた。共演のご縁で仲良くさせていただいている、大草理乙子さんの「ラッパ屋」、笠久美さんの「発電ジョカ!!」、石井ひとみさんの「路地裏月光堂」など。そしてZORA相棒サカモトは、再び韓国で芝居をするべく、旅立っていったのだ。演劇人は演劇をするのがまっとうだ。
私はというと、強風に煽られる桜の枝のように、なんだか頼りない日々を過ごしているが、3月の天災とその後のひと月で、見たこと感じたことを心にとどめ、エネルギーの無駄遣いと言われない演劇を作っていきます、とひそかに誓う。
とりあえず選挙行こ。