花火の打ち上げ時間までに帰宅せねばと、自転車を走らせる。19:00時。ペダルを踏みながら、右の空を見上げると薄闇に紛れるように、淡いオレンジの夕焼けが筋状に走っている。淡いけれど光沢があり、とても美しい。そして左の空には薄月が丸く、ある。この暑さも自転車を走らせることによって、風が生まれることを知り得した気分。バス通りには、サルスベリが色鮮やかに咲き誇る。この街に引越ししてきてから丸12年が経つが、本当によかったと思う。都心に近いわりには緑が多く、季節ごとに咲く花にオーイと叫びたくなるのだ。
そして今日は、部屋から花火を見物する。部屋に入った瞬間、一発目が打ちあがった。ベランダに駆け寄り、堪能する。薄闇だった空はすっかり闇となり、川沿いに色とりどりの花火が打ちあがっていく。ああきれい。何連発もする花火になると地鳴りがし、真っ暗な空を赤々と染め上げ、山火事を見ているような気分になり、怖ささえ感じる。これはある冊子で読んだのだけど、なぜ花火を夏にするかというと、江戸に詳しい人たちが言うには、江戸時代、疫病がはやりやすい時期、厄を払うために空に向かって厄を払うという発想なんだそう。聖なる花を打つ。夏はものが一番腐りやすいし、人が倒れて死んでいく。これをどうにかしなきゃいけないと。あれはおまじないみたいなものなんだと。
ZORAの命名は、空からいただいた。空が変換して、茜空、夕焼け空、夜空となるように、変換された空は「ぞら」と濁る。さまざまな色に変われることを望んで、「ぞら」をいただいた。でも今は、もともとの空の意味に、から、くうとあるように、この意味合いが好きになった。空虚という言葉もあるけれど、ひたすら空っぽの境地で舞台に立てれば素敵だと思う。
さてZORAは、12月上演「ジョンとジョー」のボーイ役のキャスティングに四苦八苦。今日の花火のように、スカッとこの役者さんに!という人にめぐり会いたい。でもきっとめぐり会える。今日の空に向かい、祈り、眠りにつくことにしよう。