今年の桜
新年度の出勤時、早朝の桜です。昨日までの木とは思えぬ一夜の変貌で、満開。今年の桜は、一気に開き、急激に訪れる冷雨や突風に舞い散らされながらも、すっくと立って見事です。
退社後は、近くの六義園へ行き、しだれ桜と、老木ながらぎっしりと花をつけているこちらの桜。曇り空に溶けん込んでしまいそうな淡い色です。
散るからこその美しさとはいえ、なんと儚いものでしょうか。
何度も出演させていただいている劇団の公演を、今回は客席で見ました。いつもの個性的なメンバーに加え、ダンサーや若い方々も加わりにぎやかな取り合わせ。
エッシャーのだまし絵のような舞台美術、そして、西村賢太の『悪夢―或いは「閉鎖されたレストランの話」』のエピソードの挿入。たくさんの「?」を必死に追いかけてゆくと(ここで諦めてはいけない)、ぎょっとする展開があり、すこんと底が抜けた空が見える。
「誰も見てなくても、夕焼けは赤いの?」
「わたしたちは同じ失敗をくりかえしている」
「そんなふうに死んでくれるな」
「ものすごく高く飛ぶと、空は下に見える」
「ものすごく高く飛ぶと、空は下に見える」
などなど、心に刺さる台詞がいくつもありました。
出演者の渡辺信子さん、大草理乙子さん、山上優さん、同じ日に見に来ていた、中川安奈さん、村松恭子さん、そして我々。皆同年代で皆芝居を続けている力強い仲間たち。共にここまできて、まだまだこれからもご一緒したい方ばかりです。
「人生においては、何かが起きた場所がいくつか、あるいはもしかしたらたったひとつあり、そしてその他いろいろな場所がある」
チラシの裏の、アリス・マンローの言葉が気になり・・・
読んでみました。82歳でノーベル文学賞を受賞したカナダの作家の小説集です。十の短編ですが、それぞれに中身が濃く味わい深く、何度も読み返したくなる作品でした。人生の一瞬(多くは苦しく辛い)を切り取り、読む者を深い次元に連れて行きながら、短編の潔さがあり、簡潔さゆえ長く余韻を残すような。美しく聡明に歳をとりたい。マンローのように。