午前6時の出勤時もだいぶ明るくなり、冷え込みも少し和らいできました。ご近所の桜はまだ蕾ですが、毎朝会うネコやハトもどことなく浮かれているような、春待ちの風景です。
これからやる芝居のヒントになればと、映画や絵画を廻っている中、「バベットの晩餐会」を観た。美しいデンマークの老姉妹に、フランスから亡命してきたバベットが振る舞う、一夜限りの贅沢な宴。その料理が、姉妹の若き日の情熱や恋を蘇らせ、寒村の人々の心にも明りが灯る。バベットの芸術と、受け取る(食べる)客の奇跡的な出会い。受け取る者がいなければ、芸術は成立しないという、あたりまえのことに気づかされた。
映画や絵画であれば、時を経て届く場合もあるが、演劇と料理はその場で味わわなければ消えてしまう、刹那的な芸術であるという点で似ているのかもしれない。
またこの映画の美酒美食の極みを見るにつけ思い出されるのは、1999年オーストリアのグラーツを訪れたときのことだ。市場に並ぶ獲れたての野菜、パンとチーズ。発酵途中の若いワイン「シュトルム」や食前に飲む度の強いハーブ酒。昼は芝居を作り、夜は観劇、心ゆくまでワインを飲みながら語り合えた日々。最も豊かで幸せな時間を過ごした街。ヨーロッパの村の風景から様々な感傷が押し寄せてきた。