寒い。
色づく木々の葉をながめ、ぼんやりしている間に、街のイルミネーションが灯る。なにもなかったみたいに。なにも起こらなかったみたいに。いなくなった人も震災も忘れるわけはないけれど、時は流れていく。不安をごまかしている。収束はしない。
久々に三島由紀夫の戯曲を読み、流麗だけど簡潔、饒舌だけど単純な言葉に、よいものはよい、とむくむくイメージが膨らむ。絵画や音楽のように、感覚に直接訴える力があるのだ。尋常ではない感性と美への固執は、45歳で割腹自殺を図る狂気と紙一重なのだろうか。もはや大作家も年下である。
2001年1月、今世紀最初の舞台が三島由紀夫「近代能楽集 -班女-」で、われわれは「花子」と「実子」を演じた。花と実はそれぞれに、「私は待つ」「私は何も待たない」と言い、そうして日が暮れる。11年前と現在。心情の変化、重ねた歳月を感じつつ、さらに研ぎ澄まし、再び演じてみたく思う。
この週末は父の三回忌。忘れるわけはないけれど、少しずつ離れ遠くなってゆくのかもしれない。賑やかな法事の会食終え帰宅。手のひらをこすりあわせて温かな感覚を思い出し、目を閉じる。差し向かいに座り黙ってビールを飲む。久しぶりに。