3日深夜バスで新宿発、4日早朝に大阪到着。立春といえども寒い。昨年韓国でお世話になった李澤潤(イ・ユンテク)さんの舞台を観るために大阪へ。大阪は2004年に「子午線の祀り」の舞台で滞在した以来であったので、とても久しぶりでした。そして大阪駅を歩いていると、空気、顔つきの違いを感じます。いつも住み慣れているところから離れてみると、やはり独特な気持ちになります。女三人、昼はお好み焼きのランチを済ませ、天王寺の一心寺シアターへ。劇場はまだ新しくとても綺麗でした。この日の昼の公演は超満員。劇団コリペの方、李澤潤さんのご家族の方と久しぶりにお会いし、昨年がとても懐かしく感じられ、又今年も行くと決めたメンバーにエールを送り、私は今年は日本でやらねばならぬ事があると、心を引き締めました。
老婆駒子を演じられた関西芸術座所属の河東けいさん。88歳。このご年齢で舞台を2時間、主役で出ずっぱりです。昨年の私達の「女中たち」の公演の際には、神戸から深夜バスで新宿に早朝到着し、その日の昼は韓日バージョン、夜は韓国バージョンと、2本立て続けにご覧になり、歓談。もうすぐバスがでるわと新宿からまた深夜バスでとんぼ帰り。そのエネルギーに脱帽です。私ですら、久しぶりの深夜バスに首は痛くなるわ腰は痛くなるわ。終演後、河東けいさんにお会いしその凛としたお姿に再び元気をもらいました。日韓演劇フェスティバルIN大阪
芝居はさすがです。根底にある志す方向性が明晰なので、舞台に落ちつきがあります。太田省吾さんの沈黙劇を、ユンテクさんは解き放ち言語に置き換えています。言わないことへの集中と緊張から、饒舌へ。若い方はご存知ないと思いますが、20年以上も前に太田省吾さんの「水の駅」、「小町風伝」も見ている私にとっては、この沈黙の芝居の裏にはこんな言葉があったのだなと面白く感じました。ユンテクさんは、まだご存命だった頃の太田省吾さんに「もう韓国演劇の伝統に閉じこもらず、ユニヴァーサルな世界を追求してみたら・・・。」とおっしゃられたそうです。その一筋縄ではいかないユニヴァーサル性を獲得できるか、ユンテクさんは懐疑的であったにも関わらず、「小町風伝」で今回上記のような方法で試みています。日本と韓国、そして両方を携えた第三の相互的なものがあるのか、それとも単なる文化交流にとどまる雑種演劇になるのかと言い切っています。そのような課題を持つか持たぬかでは大きな違いです。そんな課題を持ちつつ挑んでいくユンテクさんにやはり拍手を送りたいです。
疲れもあって、静かなシーンが続くと時折睡魔にも襲われましたが、終演後、皆で近くの店に赴き、ユンテクさんにうどんとすしをご馳走になり、お別れしました。私はもう今年はユンテクさんとお会いできる時はないでしょう。同じ日本でも、東京と大阪の空気感の違いを感じます。日本と韓国も長い歴史がありました。でもこうして時が流れ韓流ブームというものもやってきました。未来はやはり自らの手で創りあげていくものだと実感します。ユンテクさんがダメだしでよく言っておられました。「目を大きくあけて!」甘えてばかりではいられません。さて春に向かって。