森鴎外(1862~1922)
終えた冬に豚汁を食べていなかったことを思い出し、もう春だというのに豚汁で温まらなかった腹が寂しがるような気がして、急遽台所に向かう。牛蒡の匂いに惹きつけられる。やらねばならぬことを優先すると何かが置き座リになる。外食でがっかりするのなら家で作ろうとも思うが、作っている時間がない。時短料理を開発せねば。
今回の「高瀬舟」に来てくださる方の反応がこれまでとは違う広がりがあるのは、やはり今回の作品に、また朗読に期待があるからだと思う。FAX、携帯電話、ツイッター、時短はどんどん進んできたが、朗読はひとりで語るだけというとてもシンプルなものである。昔も今も変わらない。そして私が問われる。こんなサスペンスもたまにはいい。
それにしても森鴎外の多面性。陸軍軍医、ジャーナリスト、ドイツ美学の訳述、政治への発言。生涯衰えることのなかった思い。鴎外の文学への渇望は、終生その身を俗界に置いていた彼の自己救済の願いに深く関わっていたとされる。私が興味も持つのもこの点なのです。森鴎外の名声は、文学上の業績によってはいるが、この多面性は日本の近代文学者中まったく類例をみないと評されています。
「高瀬舟」の蒼白い喜助の美しさ、夜舟での静謐な時間に惹かれて読みはじめましたが、どんなに過酷な状況下においてもやはり再生、希望ということが脳裏をかすめます。皆さんが観に来てくださるのを励みに頑張ります。